記憶の扉


NHKテキスト『きょうの料理』のバックナンバーが古本屋に出ていた。
ふと見ると、ただでさえバックナンバーなのに、かつて紹介したレシピの復刻コーナーがあった。
もう亡くなった料理研究家が、生前載せたレシピと、現在それを受け継ぐ弟子の言葉を添えて紹介するコーナーだ。
僕が手にした号に載っていたのは、「ぼこ玉」。
かに玉を作りたいのに、カニが高くて手に入らない。そんな時、かまぼこで代用して作った「(かま)ぼこ玉(子)」。
現在、それはただのかまぼこではなく、カニ風味かまぼこを使っているというのが弟子の言だが、それを見た時、僕の記憶の扉が開いた。


子どもの頃、よく祖母が作ってくれた玉子焼き。
父母が共稼ぎで、夕飯をよく祖母が作ってくれたわけだが、その玉子焼きに刻んだかまぼこが入っていたなぁ。
口中に、そんな幼少の時の味覚が戻って来て、もうひとつ別の記憶が。
……沢庵チャーハンだ。
黄色い安っぽい甘い沢庵だけが具で、あとは醤油だけで味を付けたチャーハン。
これも祖母の作ってくれたものだ。


貧乏臭いと笑うなかれ。祖母は実際貧乏だったのだ。せっかく戦争で生き残った夫――つまり祖父は戦後すぐ病気で死んだ。今でも祖父の遺影は、髪が黒々として、皺のない顔で微笑んでいる。
貧乏レシピなんてお手の物なわけだ。
そして僕は今現役の貧乏だ。


明日のゴハンは決まった。
朝はベーコンエッグ。
昼は沢庵チャーハン。
晩はかまぼこ入り玉子焼き。


ベーコンエッグは、単に今冷蔵庫を見たら賞味期限が昨日だったから。出来るだけ早めに使いましょう、と。



……あ、祖母は健在ですよ。